序章
それは遥か遠い遠い昔のある惑星。かつては緑と水・・・豊かな自然に溢れ生命の輝きに満ちていたはずの惑星。
しかし、その惑星にはいつしか争いが起こり荒れ果てていた。
天の能力をもつ天人と龍を作り出し操ることが出来る龍族。
この2つの種族達が互いに支配欲に狩られ名賀木に渡り争いを繰り返していた。
だが、そんな世界の中にあっても平和を望む者もいた。そんな者達は天人・龍族の垣根を越え自らが暮らす場所に特殊な結界を張り平和に暮らしていた。
そんな結界の中で暮らす、まだ幼さが残るある夫婦。彼らは龍族と天人・・・種族を越えて新たな絆を結んだ2人だった。
素朴な、暖かみの溢れる木造の家。質素な作りの中にもその温かさは溢れるばかりで光に満ちていた。
そんな空間で2人は静かに寄り添っていた。温かい空間の中にあるソファーの上で、身を寄せ合うようにし夫である者が腹部が大きくなっている妻である者の肩を愛しそうに抱き締めていた。
「結界の外はまだ今も争いが続いているのね」
彼女はそう静かにつぶやいた。そして彼の肩に頭をもたれさせる。
「ああ」
彼は彼女のつぶやきにそう答えてもたれ掛かる彼女の頭を優しく撫でた。
「ここは天人も龍族も共に平和に暮らしているというのに何故、皆がそう出来ないのかしら」
「持ってしまった『欲』を捨てる強さがないのだ。」
彼の言葉に彼女は少し悲しそうな表情を浮かべてわずかにうなずいた。そして、大きくなった腹部を優しく撫でる。そこに宿っている新しい生命。もうすぐその生命の輝きはこの外の光の中に生まれる。その我が子には外で争いを続けるような弱い存在にはなってもらいたくはない。そして、出来る事ならば争いなど知らない世界で生きて欲しいと望む。
「この子には平和な世界で生きて欲しいわ」
「ああ」
天人と龍族の血を持つ特別な子供。
やがてその生まれる子供が待ち受ける運命は、大いなるものとなるであろうことを今の彼らには想像する事もない。
ただ、願うのは我が子の幸せ―――。
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