| 第二章 雪女の呪いと銀狼の涙
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ウェストル大陸の最南端であるレミュー王国とは正反対。大陸の最北端にあるノエリュー王国。
レティルとガイはレミュー王から『頼みごと』を再びされ、こうして大陸を縦断してノエリュー王国へ向かった。
レミュー王が手配してくれた馬車でレミュー王国の北、ダルホ山脈の山越えの洞窟を越えレミュー王国の隣国であるエルウェント王国に入る。ここはレミュー王国とは長く同盟を結び、互いに王族を嫁がせている親密な国だった。
この国は湖と森が多く、自然が豊かな国であり、それが地理的にも国を守るには好都合であったのだろう、邪神軍からの攻撃にもうまく耐え凌いでいる国だった。
そのエルウェント王国の東側にある大陸最大の湖であるニューズ湖とその傍に広がる広大な森、アルズエクの森を見ながら更に北へと馬車を進める。
途中、街で何度か休み、食料などを補充しながら北にあるホントン山脈の麓に広がるエグメの森の西側を回り、途中小さな町を通り、そして次の国、ヴァイナ王国に入った。
ヴァイナ王国の中心をまたぐようにあるトゥル湖とそこから流れる大河のヴァルティ川の東を大きく回って二人はようやく、レミュー王国を旅立って1ヶ月ほどをかけて目的地であるノエリュー王国との境である、国境の町ロルナトゥへ到着した。
だが、レミュー王国から遥か北、二つの国を通ってようやく到着したこの町で、二人は目的地を目の前にして足止めを食らっていた。
「レミュー王の書簡を見せてもすんなり通してもらえないなんてね」
このロルナトゥの町に到着してから三日。
二人は特にやることもないので仕方なく町をぶらつくか、のんびりこうやって宿屋の一階にある食堂兼酒場でお茶をしながら時間を潰していた。
ギルドがあれば、ハンターの仕事を請け負って、それなりに稼いだりも出来るのだが、この町は国境ということもありギルドはなかった。
まぁ、あったところで国王からの仕事が最優先されるこの現状では易々と他の仕事を請けるわけにはいかないだろうが。
国と国との間を通るには手続きが必要だった。それはこのご時世では仕方のないことであり、それはどんな職業のものでも必要だった。
だが、レティルとガイはレミュー王から通行手形と書簡を貰い、手続きに時間が必要以上に掛からないはずだった。
なので、レミュー王国からエルウェント王国、そしてヴァイナ王国への入国はその日の内に出来た。普通なら3日から1週間は掛かるところを。
だが、このヴァイナ王国から目的の国、ノエリュー王国への入国は未だに出来ない。
一刻も早く、ノエリュー王国へ向かわなくてはならないというのに。
二人がそもそも、ここまでやってきた発端はレミュー王国の宿屋の女将マールタの息子の一件から始まっている。
その息子、ティムの行方を追い、あのパドラの一件に巻き込まれたわけだが、結局としてそのティムの行方としては遠征に出ているとしかあの時は判らないままだった。
だが、話を聞いてみるとその遠征の指示そのものはレミュー王が出したものだという事が判り、その兵士選びをパドラが行ったらしい。
しかし、話はそれで終わりではなかった。
遠征先は最北端の国、ノエリュー王国。
その国は農業が主体で、兵力を持たない、いわゆる田舎の国と言われる程の平穏な国であった。そのためなのか、邪神軍も攻め入ろうとはせず、国民はモンスターの脅威にはさらされているもののそれなりに暮らしていたはずだった。
だが、その国でなにやら異変が起きたらしい。それで国王がレミュー王に応援の要請をしてきたというのだ。
それがレミュー師団の遠征理由だった。
だが、その師団が予定の日にちを経過しても誰一人としてノエリュー城へ戻らないと連絡があったのはパドラとの戦いがひと段落着いて一週間が経とうとしていた頃だった。
優秀な兵士ばかりを選んで遠征させたパドラ。だが、それが結果的にノエリュー王国で起こる異変の重大性を知らせる事になるとは皮肉だった。
トップクラスの人間が多数参加している師団が、なんの連絡もなく、また誰一人として戻らないというのは何かとてつもない異変が起こっているか、あるいは邪神軍がそこで何か動いているか……。
だが、これ以上兵を出すことは出来ないレミュー王は、戦力的にも信頼の置けるレティルとガイに師団の行方と応援を頼んだのである。
そうして二人は今、ここにいるのであるが……。
「ったく、どうなってんだかなぁ」
テーブルに置かれた菓子を口に入れながらガイがハーブティーを飲み、そう呟いた。
一国の王が直々に書いた通行手形と書簡を持ってしても通れない。自分たちとしては早くノエリュー王国へ向かい、師団に何が起こったのかを知る必要があるというのに……。
しかし、こればかりは焦っても仕方のない事ではある。どうやっても通してもらえないのなら、通してもらえるまで待つしかないのだから。
「焦っても仕方ないよね。お茶も美味しいし、のんびり待とうよ」
少し甘いお茶を一口飲んで言うと、向かいに座るガイは頬杖をついて呆れたように大きく息を吐く。
「お前、呑気だね〜。少しは焦らないのかよ」
「焦っても通れないもんは通れないでしょ。なんだったら強行突破という手もあるんだけど」
ニコっと笑ってレティルがそう言うと、ガイは視線を外して少し考える仕草をする。でも、それは少しの間だけですぐに眉間に皺を寄せて項垂れると掌だけをヒラヒラさせた。
「いや、いい。それやったらお前、この町の半分は吹っ飛ばすだろ」
「失礼な」
ガイの言い草にレティルはムッとして返す。
いくらなんでもそこまではしないと言い返しながらガイを睨み付けると、彼は顔を上げ肩をすくめると苦笑を漏らした。
「お前、性格変わったなぁ〜」
しみじみ言うガイにレティルはクスクスと笑うと
「人の事言える?」
と余裕を込めて返した。
そんな二人に声を掛けてくる人物が突然現れた。
「ギルドのハンター、レティル殿とガイ殿ですか?」
「はい?」
急に声を掛けられた二人は間抜けな声を上げながら視線を向けると、そこにいたのは身体つきの大きな兵士。
ヴァイナ王国の紋章の入った鎧を身に着けていることを考えて、ヴァイナ王国の兵士だということはすぐに判った。
「そうですが、何か?」
レティルはそう、声を掛けてきた兵士に尋ね返すと、その兵士は続けて言った。
「関所、門番師団の師団長がお二人にお会いしたいと申しております」
「師団長が?」
いきなりの話の展開に二人は思わず顔を見合わせた。
二人は町の北側にある国境の関所に向かった。
関所といっても小さなものではなく、周囲を丈夫な壁に囲んでいる立派な建物である。
ノエリュー王国は兵士を持たない国であることから、国境の監視を隣国のヴァイナ王国が行っているようだ。
ヴァイナ王国の厳重な警備のあっての今までの平穏だったんだろうと思うと、ヴァイナ王国も相当の戦力を持っているらしいことは簡単に想像はつく。
そんな厳重な警備を行っている関所にレティルとガイはやってくると、兵士の案内で師団長がいる部屋に通された。
師団長の部屋という割には簡素ではあった。だが、利便性を考えてある部屋らしく、必要なものだけがあり、壁には国の紋章の国旗とそれと同じものが入った武器や防具などが飾られるようにあった。
その部屋の中心で茶色の短い髪の、口髭を蓄えた男が威厳ありげに佇んでいた。
彼が師団長だとレティルが思った時、その彼は礼儀正しく深々と頭を下げてきた。
「呼びつけてしまい、大変失礼をしました。私がこの門番の師団をまとめる長、ゾイル=ケルムと申します」
「ギルド所属のレティル=セティです」
「同じく、ガイ=バルトールです」
レティルたちは同じように頭を下げ、改めて名を告げた。
二人は師団長、ゾイルの勧めにしたがって部屋の中央にあるテーブルにつくとゾイルもそこに座り、本題の話を始めた。
「レミュー王からの手形と書簡は拝見しました。 レミュー師団は確かにここを通り、ノエリュー王国へ入りました。そして王に面会後、ある村に向かったそうで、そこから戻らなくなったと話を聞いております」
「ある村?」
二人の疑問にゾイルは手短にあった地図を机の上に広げた。
それは世界全土を記すものではなく、ヴァイナ王国とノエリュー王国の領土を事細かに記した地域地図だった。
その地図を広げると、ゾイルは指を動かし指し示す。
「このノエリュー王国の北にあるザムノの山、この麓の小さな村、スイウィの村です。レミュー師団はこの村で起こった異変を調べるために向かったと」
「こんな小さな村に師団を派遣したのですか? 」
普通ではありえない状況に、その異変がやはりただならぬものだという事をレティルはひしひしと感じ始めていた。
レミュー師団が、世界最高峰といわれる戦力を誇る国の師団が、農業が主体の静かな国の、こんな小さな村に出向く。
そして事もあろうにそこから誰一人として戻らないという。
一体何があったというのだろうか、ノエリュー王国で、この小さな村で。
「私が聞いている話では、この村が氷に閉ざされていると聞いております」
「氷に閉ざされている?この村がですか?」
ガイの言葉にゾイルは言葉少なく頷くだけだった。
師団が戻らない以上、情報としてはないに等しいのだろう事を考えても、ゾイルが自分たちに提供できるのはこれぐらいなのだろう。
ただ、国の状況を考えて邪神軍が攻めてきたというわけではない事だけは確かだ。
だとすれば、モンスターの仕業で、何かあったことも考えられるだろうが、そうだとすればレミュー師団が戻らないというのはおかしい。モンスターなら、よほどのレベルのモンスターでない限りは決して負けはしないだろう。
「……村を氷に閉ざす異変と師団の事、無関係じゃないよね」
何か、異変には要因がある。それを調べるために向かった師団が戻らない。
問題はその『要因』というものがなんであるかという事だ。
隣で難しい顔をしていたガイが右手を口元に当て考えると、少しの間をおいて口を開いた。
「邪神軍とは関係なくても、魔族ってセンはアリかもな」
何かが、起こっている。あの国で。
「行くしか、なさそうだね」
レティルはテーブルに広げられた地図の上にあるノエリュー王国の記しを見つめたまま呟いた。
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